マンハッタン・ウエストという場所には、どこか「きれいに整えられたニューヨーク」の匂いがある。
新しいビル、広い歩道、ガラス張りの建物、作り込まれた植栽。街というより、街を一度きれいに洗って、角を少し丸くしてから置き直したような場所だ。そこにあるレストランは、たいてい洗練されていて、便利で、値段もそれなりにして、そして大きくは外さない。
Ci Siamo も、その一角にある。
ダニー・マイヤー氏率いる Union Square Hospitality Group が手がけるイタリアンレストラン。2021年にマンハッタン・ウエストにオープンし、薪火料理や自家製パスタを中心にした店として知られている。ニューヨークのイタリアンは数え切れないほどあるが、その中でも、かなり「今のニューヨークらしく整った」店のひとつだと思う。
Ci Siamo
440 W 33rd St Suite #100, New York, NY 10001
https://maps.app.goo.gl/aG3Wiwu4ua5E8yGo9
https://www.cisiamonyc.com/
店内はかなり広い。テラコッタの壁、木材の温かさ、大きな窓、オープンキッチン。いわゆる「雰囲気のいいレストラン」であり、そこにきちんとお金がかかっていることがわかる。昼間は窓から光が入り、夜は少し賑やかになる。落ち着いた食事をしたいなら、ピークの時間を外した方がいいかもしれない。
ただ、広い店というのは不思議なもので、席に座った瞬間に少しだけ安心する。狭いレストランのように、隣のテーブルの会話や皿の音が体に近すぎることもない。大きな空間の中で、こちらの食事だけが小さく始まる感じがある。
Ci Siamo の料理は、全体的にとてもシンプルだ。けれど、ただ軽いわけではない。薪火、チーズ、オリーブオイル、バター、塩、香ばしさ。そういうものがかなりはっきりと前に出てくる。

この日は、がっつりメインを食べたというより、前菜やパン、パスタをいくつか頼んだ。
まず印象に残るのは、Caramelized Onion Torta。
バルサミコで煮詰めた玉ねぎに、ペコリーノ・トスカーノ。表面はこんがり焼け、上からチーズとハーブが散っている。見た目は小さなグラタンのようでもあり、タルトのようでもある。ナイフを入れると、中から玉ねぎの甘さとチーズの香りがじわっと出てくる。
これは、かなり強い。玉ねぎというものは、普段は脇役の顔をしている。スープの底にいたり、ソースの奥にいたり、肉の横で静かに甘みを出していたりする。しかしここでは、玉ねぎが主役として正面に座っている。しかも、ただの玉ねぎではない。煮詰められ、焼かれ、甘さと香ばしさを持ち、チーズまで背負わされた玉ねぎである。フレンチオニオンスープを、ぎゅっと押し固めて、タルトとグラタンの間に置いたような味がする。かなり濃い。かなり甘い。そして、ちゃんとしょっぱい。この一皿だけで、店の方向性が少し見える。上品な顔をしているが、味は意外と遠慮がない。


丸く焼かれたフォカッチャは、表面がしっかり香ばしく、中はふっくらしている。横にはトマトのコンセルヴァ。オリーブオイルと赤いソースが小さな器に入っていて、これをつけながら食べる。このフォカッチャは、かなり危険である。
パンというものは、料理が来るまでのつなぎのような顔をしてテーブルに置かれることがある。しかし、これはつなぎではない。普通に一品として強い。外側の焼き目、油の香り、塩気、もちっとした中身。そこにトマトの酸味と甘みをつけると、もうそれだけでしばらく黙って食べてしまう。こういうパンが最初に出てくると、食事の予定が少し狂う。まだ始まったばかりなのに、胃袋がすでに本気を出し始める。
もう一つ、Pizza Bianca と思われる一皿も頼んだ。細長い生地の上に、サルサヴェルデのような緑のソース、アンチョビ、赤いトマト系のアクセント、アイオリらしき白いソース。見た目は軽そうだが、食べるとかなり味がはっきりしている。アンチョビの塩気、緑のソースの香り、焼けた生地の香ばしさ。これはピザというより、酒を呼ぶ板である。「お腹を満たすためのピザ」ではなく、「もう一杯飲ませるためのピザ」という感じがする。塩気があり、香りがあり、少しだけ油があり、噛むたびに次の一口へ進ませてくる。Ci Siamo の料理は全体的に、ワインを横に置いた瞬間に完成するように作られている気がする。
水だけで向き合うと、少し濃い。ワインと向き合うと、急に話が通じる。このあたりは、なかなかずるい。

パスタは、 Rigatoni Alla Gricia。
リガトーニにグアンチャーレ、黒胡椒、チーズ。見た目はかなりシンプルだ。白っぽいソースに黒胡椒が散り、ところどころに肉の旨みが見える。派手な色はない。トマトもない。魚介の華やかさもない。
しかし、食べるとしっかり重い。リガトーニの筒状の中に、ソースと脂とチーズが入り込む。そこに黒胡椒がかなり効いている。クリームではないのに、口の中で濃く感じる。グアンチャーレの脂が、パスタ全体にゆっくり広がっていく。これは、白い顔をした肉料理だと思う。見た目は静かなパスタなのに、食べているうちにだんだん肉の存在感が出てくる。チーズ、脂、黒胡椒。派手ではないが、逃げ場がない。気がつくと、皿の底を見ている。
Ci Siamo の料理は、全体的に「わかりやすい」のに「軽くはない」。
玉ねぎは甘く、チーズはしょっぱく、パンは香ばしく、アンチョビは塩気があり、パスタは脂と胡椒で押してくる。奇抜な料理ではない。食材の組み合わせも、イタリアンとして大きく外れてはいない。けれど、ひとつひとつの味が少し強い。
きれいな店で、きれいな皿に乗って出てくるので、最初はこちらも少し上品な気持ちで食べ始める。でも途中から、これはなかなか力技だなと思う。
玉ねぎ、パン、アンチョビ、グアンチャーレ。考えてみれば、どれもかなり根の強い食材である。Ci Siamo は、それをきれいな空間の中で、きれいな顔をして出してくる。その感じが面白い。未知の料理に出会うというより、知っているはずのものを、かなり整った場所で、少し強めに食べさせられる店だと思う。