アッパー・イースト・サイドには、ダウンタウンやミッドタウンとは違う種類の落ち着きがある。観光客の流れよりも、そこに住む人たちの生活の速度で時間が進んでいて、レキシントン街を歩いていても、どこか品よく整った空気が漂っている。ソーヴィニヨン・ブランを氷入りで飲みながら昼を過ごす、そういう街だ。
Dear Margo は、その UES の一角にある東地中海(イースタン・メディタレニアン)料理店。いわゆるレヴァント地方——地中海東岸の食文化を軸にした、パン・スプレッド・サラダ・串焼きを中心に据えた店だ。派手さで押すのではなく、素材と丁寧さで見せていくタイプの一軒だった。
店名は、オーナーである Dean Pashalis 氏の祖母マーゴから取られている。ギリシャ語で「Margo(マーゴ)」は真珠を意味するそうで、「街の宝石のような一軒に」という想いが込められているという。Pashalis 氏はマンハッタンの Anassa Taverna で十年以上のキャリアを積んだ人物。厨房を率いるのはレヴァント出身のエグゼクティブシェフ、Efraim “Efi” Naon 氏で、Motek、Barbounia、Frena、Taboon といったこの街の地中海系の名店を渡り歩いてきた経歴を持つ。名前は個人的で温かいのに、料理の背景はかなり本格的、というギャップがこの店の面白さだと思う。
Dear Margo
961 Lexington Avenue, New York, NY 10021(East 69th〜70th の角)
予約は Resy から。ランチからディナーまで通しで営業している。


この店の中心にあるのは、なんといってもスプレッド(ディップ)と自家製のラッファ(laffa)だ。ラッファはピザ窯で注文ごとに焼き上げる、ポケットのない薄めの平焼きパンで、熱々のまま運ばれてくる。面白いのは、これを手でちぎるのではなく、仕立て屋が使うような大きなハサミが添えられて出てくること。ちょっとした演出だけれど、この一手間が「雑に食べる料理じゃないですよ」という店の姿勢を静かに伝えてくる。
スプレッドは単品 13ドル、3種で 22ドル、5種で 29ドルという構成。この日は 5種の盛り合わせを頼んだ。時計回りに、ディルとオリーブオイルをまわしかけたキュウリヨーグルト(greek yogurt・cucumber・dill・garlic)、ザクロと胡麻をのせたババガヌーシュ(焼き茄子とタヒニのディップ)、スマックを振ったスパイシーフェタ、そして中央下の鮮やかなピンクがビーツ、右の赤い皿がひよこ豆のフムスだ。

前菜からもう一品、モロッカン・シガー(Moroccan Cigars/19ドル)。春巻きのように細長く巻いて揚げた一品で、中身は煮込んだ和牛(wagyu)とリーク、バハラットスパイス、そしてハリッサアイオリ。皮は驚くほど薄くパリッと揚がっていて、噛むとスパイスの効いた肉あんがしっとり出てくる。レモンを搾って、赤いピクルスと一緒に。前菜の中でも満足度が高く、テーブルで真っ先になくなる系の料理だった。
飲み物は、リストにあったイスラエルの白を一杯。ゴラン高原(Golan Heights)の Mount Hermon という、イスラエル最高峰の名を冠した白ブレンドだ。標高が高く夜が冷えるこの土地の白は、暑い産地のわりに酸がきれいに残るのが特徴で、柑橘と桃に、ほんのり花のようなニュアンス。かっちり辛口ではなく、少しだけ甘みを残したセミドライな造りが、スパイスやハリッサの効いたレヴァント料理の熱をやわらげてくれる。ニューヨークで地中海料理を出す店は多いけれど、ワインまでその土地に寄せてくる店は意外と少ない。土地の料理には土地の酒、という当たり前を、こういう一杯で思い出す。

メインは串焼き(skewers)へ。Dear Margo の串は基本的にどれも、香りのよいイエローライス(黄色く色づけした basmati)とハウスサラダが同じプレートに盛られて出てくるスタイル。この日頼んだのはラム&ビーフ・コフタ(Lamb & Beef Kofta/27ドル)。ラムと牛の合い挽きを長い平串に成形して焼き上げたもので、表面はしっかり香ばしく、中はジューシー。スパイスとハーブが練り込まれていて、単調にならない。

そして最後、会計のタイミングで全員に無料で出てくるのが、小さな金属カップに入ったフローズンヨーグルト。この日はクランブルと蜂蜜のようなソースがかかっていて、さっぱりとした酸味で食事を締めてくれる。頼んでいないのに出てくる、この最後のひと匙が地味に効いていて、「また来てね」という店からの挨拶のように感じられた。
全体として、Dear Margo は「みんなでシェアして、少しゆっくり喋りながら食べる」ための店だ。祖母の名前を冠したパーソナルな入り口を持ちながら、シェフの経歴に裏打ちされた東地中海料理のレベルは高い。予約が取りにくい一軒ではあるけれど、UES で軽やかで華やかな地中海料理をつまみたいときには、確かに足を運ぶ価値がある。名前の通り、この街の「真珠(Margo)」を狙っているのがよくわかる店だった。