Firstleafが届く。スワイプでワインを選ぶサブスク。送られてくる箱を開ける前から、なんとなく分かっている。

 ——これはオレンジワイン専門のブルックリンのナチュラルワイン屋の箱じゃない。アメリカ全土を横断する、郊外の夕食アップグレード箱だ—— と。

 スーパーよりちょっと楽しく、難しすぎず、ラベルはそこそこ綺麗で、肉とチーズとグリルに合う。$20台後半に見える。そういう設計。別にいい。それが資本主義だ。
 でも私が欲しいのは、もっと素朴なものだった。地元の土と水で作りました、みたいな安いワイン。値段の話じゃなくて——なんか風景の味がするワイン。主張しすぎない。ボトルのブランドより、丘とか、海風とか、乾いた草とか、石灰とか、そういうものが舌に残る。スペインとかポルトガルとか南仏の、ちょっと埃っぽいやつ。

 アメリカの中価格帯ワインは、そこが逆になる。風景より先に、設計思想が来る。「こういう果実味にします」「この価格帯の人が“良いワイン”と思う香りにします」。マーケティング会議の声がちょっと聞こえる。Crisp とか mineral とか unoaked は期待していい。buttery とか jammy とか toasted oak は、たぶん逃げたほうがいい、みたいな感じ。これは好みの話だけど。

 日本だと、地元の日本酒をガブガブ飲むのが、実は一番美味な作法だったりする。土地と飲み手の間に、何も挟まらない。蔵があって、近所の人が普通に飲む。それだけ。
 アメリカでそれをやろうとすると、なぜかマーケティングの味になる。土地が先にあるんじゃなくて、土地という売り文句が先にある。「地元産です」がすでにコピーの一部になっている。
 ニューヨークに住んでいると、これが特に強い。何を買っても、勝手に「これは体験です」というレイヤーがついてくる。私はただ、誰のためでもない、私のために上乗せされたものが何もない、普通の酒をガブガブ飲む生活がしたいだけなのに。
 Firstleafは、たぶん理想の箱じゃない。アメリカ全土を渡ってくる箱の中から、ヨーロッパの村っぽいものを救出するゲームだ。ワインガチャ。でもスワイプで地雷は避けられる。それだけでも、ちょっと楽しい。

 本当は、名前も覚えないまま、冷蔵庫から出して、コップに注いで、焼いた魚とか、残り物の野菜とか、何でもない皿の横で飲みたい。美味しいかどうかすら、あまり考えたくない。ラベルも、点数も、受賞歴も、私の夕食をアップグレードする物語も、なくていい。

 ただ、その土地の水分が、少し発酵しているだけでいい。
 それを飲んで、今日は終わり、と思いたい。