ブルックリンのグリーンポイントには、ポーランド系の店がいくつも残っている。ニューヨークに住んでいると、世界中の料理が身近にあるような気がしてくるが、実際には食べ慣れた国の料理ばかりを選んでしまうことも多い。イタリアン、中華、韓国料理、メキシカン、タイ料理。味の想像がつく料理には入りやすいが、ポーランド料理となると、私にとっては少し距離があった。
そんな中で訪れたのが、グリーンポイントにある Pierozek である。名前の通り、ポーランドの伝統料理であるピエロギを中心にしたレストランだ。ピエロギとは、簡単に言えばポーランド風の餃子のようなもの。小麦粉の生地で、じゃがいも、チーズ、肉、きのこ、ザワークラウト、果物などを包み、茹でたり焼いたりして食べる料理である。
Pierozek
592 Manhattan Ave, Brooklyn, NY 11222
http://www.pierozekbrooklyn.com/
https://maps.app.goo.gl/RugXUYSEm29jfKPs5

ピエロギという料理は、見た目だけで言えばかなり控えめだ。白く丸い生地が皿の上に並び、キャラメリゼされた玉ねぎやサワークリームが添えられている。派手な料理ではない。けれど、食べてみると、中身によってまったく印象が変わる。
定番のポテト&チーズは、まず安心する味だった。なめらかなじゃがいもとチーズの組み合わせは、想像を大きく裏切るものではないが、そのぶん強い。サワークリームをつけると全体が丸くなり、寒い地域の家庭料理らしい、しっかりとした落ち着きがある。これは新しい料理というより、「人間は寒いとき、こういうものを食べるべきなのだろう」と妙に納得してしまう味である。
ザワークラウトとマッシュルームのピエロギもよかった。ピエロギは生地と具材の性質上、全体的にやわらかく、丸い味になりやすい。しかしそこにザワークラウトの酸味が入ると、一気に風通しがよくなる。きのこの旨味と発酵したキャベツの酸味が合わさり、ポテト&チーズよりも少し大人びた印象になる。
肉入りのものは、より食事としての強さがあった。小さな生地の中に肉の旨味が詰まっていて、ひとつ食べるだけでもそれなりに腹に届く。ピエロギは一見みんな同じような顔をしているのに、中に何が入っているかで性格が変わる。じゃがいもを入れれば家庭的になり、肉を入れれば主菜に近づき、ザワークラウトを入れれば発酵の香りが立つ。餃子のようでもあり、小さな国土のようでもある。
メニューには、ほかにもハラペーニョ入り、ほうれん草とガーリック、アイリッシュチェダーとベーコンとポテト、甘いチーズや果物を使ったものなど、さまざまな種類が並んでいた。すべて食べたわけではないが、メニューを見ているだけでも、ピエロギという料理がかなり自由な器であることがわかる。皮の中に何を包むか。それだけで、料理の行き先が変わっていく。
そして、この店で忘れてはいけないのが酒である。


Pierozek には、ポーランドの地酒ウォッカがいろいろ揃っている。フルーツ系の甘いもの、ハーブの香りがあるもの、いかにも東欧らしい強さのあるもの。酒好きとしては、これは見過ごせない。この日は、ウォッカを上から順番に飲むくらいには飲んだ。こう書くとやや乱暴だが、実際そういう日もある。
ピエロギとウォッカの組み合わせは、とてもよかった。ピエロギは基本的にやさしい料理である。丸く、やわらかく、中にじゃがいもやチーズや肉を抱えている。そこにウォッカが入ると、急に背筋が伸びる。サワークリームの丸さ、キャラメリゼされた玉ねぎの甘さ、じゃがいもとチーズの重み。そこへ冷たく強い酒が入ることで、食卓の輪郭が少しはっきりする。
フルーツ系のウォッカは飲みやすいが、もちろん油断してはいけない。甘い香りがしても、結局はウォッカである。ラズベリーやチェリーのような親しみやすい味の奥に、きちんと酒の強さがある。ハーブ系のものは、もっと個性的だった。ピエロギや肉料理の横に置くと、ニューヨークのブルックリンで食べているはずなのに、口の中だけが少し寒い国の方へ引っ張られる。
ピエロギ以外では、ビーツを使った赤いスープ、Barszcz(ボルシチ)やコロッケやロールキャベツもおいしかった。ポーランド料理らしい、しっかりとした家庭料理の方向にある。特にロールキャベツのような料理には、国を問わず安心感がある。キャベツで何かを包み、煮込み、やわらかくして人に出すという行為には、どこか共通した優しさがあるように思う。
店内は、どこか家庭的で温かい。観光向けに大きく演出された「異国料理店」というより、グリーンポイントの街の中に自然にあるポーランド料理店という印象だった。白い壁やレンガ、ポーランドらしい装飾があり、派手ではないが落ち着く。料理の味も、その空気に合っている。
ニューヨークでポーランド料理を食べたい時、特にピエロギをいくつか食べ比べながらポーランドの酒も試してみたい時、Pierozek はかなりいい。食後、少し酔いながらグリーンポイントを歩くと、腹の中にピエロギがいる感じがした。それは重いというより、どこか心強い。小さな餃子たちとウォッカが、胃の中で静かにポーランド会議を開いている。
たぶん、そういう夜も悪くない。